「もう、この仕事は辞めたい」
もし、あなたが今、スマートフォンの画面を一人で見つめながらそう思っているなら、その気持ちは決して「甘え」なんかじゃありません。むしろ、心と身体が発している危険信号に、真摯に耳を傾けている証拠です。
私は長年この業界で、たくさんのドライバーたちと仕事をしてきました。素晴らしい腕を持ち、誰よりも真面目なドライバーほど、静かに、そしてある日突然、この業界を去っていく姿を何度も見てきました。
彼らが辞めていった理由は、ほとんど同じです。
ダンプの運転が嫌になったからじゃない。仕事そのものに飽きたからでもない。
理由は、決まって「会社」にありました。
だから、もしあなたが今の会社に心身をすり減らしているのなら。
辞めて正解です。
ただし、あなたが本当に手放すべきなのは「ダンプのハンドル」そのものではなく、今の「会社のキー」だけなのかもしれません。この記事が、その判断の助けになれば幸いです。
【その会社、大丈夫ですか?辞めるべき職場のチェックリスト】
これは、私がこれまで見てきた「良いドライバーが、長くは続かない会社」の共通点です。ご自身の状況と照らし合わせながら、いくつか、正直にチェックしてみてください。
・給料日が来るたび、溜息が出る。
雨が降れば、その日の稼ぎはゼロ。天気予報アプリを、給料明細を見るより真剣にチェックする日々。そもそも、何年も真面目に働いているのに、給料は入社した頃からほとんど変わらない。年齢を重ね、家族が増えても、経済的な安心は一向に手に入らない。あなたのその貴重な経験と、何万キロと積み重ねてきた無事故の実績は、本来、会社にとってかけがえのない財産のはずです。その価値を正当に評価せず、年々上がる税金や物価の話からも目を背ける会社に、あなたの未来を預けることはできません。
・「休憩」という名の「緊張感のある待機」が日常だ。
現場に着いても、前のダンプが出るまで数時間待つのは当たり前。エンジンもかけられない車内で、いつ呼ばれるか分からない緊張感を保ったまま、ただ時間を潰す。それは休憩ではありません。心と身体をすり減らすだけの、不毛な時間です。本来、休憩とは心身を回復させ、午後の安全運転に備えるための大切な時間。それを「仕事のうち」と捉え、ドライバーの疲労に無頓着な会社は、安全への意識そのものが低いと言わざるを得ません。
・現場の人間関係に、心を消耗している。
「言った・言わない」の押し付け合い。高圧的で、その日の気分で指示が変わる現場監督。会社に報告しても「現場の言うことを聞け」と取り合ってくれない。本来、会社は現場との間に立ち、ドライバーを守る盾となるべき存在です。その役割を放棄し、すべての精神的負担をドライバー個人に押し付けるような環境では、どんなに屈強な精神の持ち主でも、いずれ参ってしまいます。
・車両が、あなたの「相棒」ではなく「時限爆弾」に感じる。
タイヤは擦り減り、ブレーキの効きも甘い。不具合を報告しても「まだ大丈夫だろう」と整備は後回し。「安全より効率」という空気が、会社全体に蔓延している。ダンプは、あなたにとって仕事道具であると同時に、命を預ける相棒です。その相棒のメンテナンスを怠る会社は、あなたの命を軽視しているのと同じです。そんな場所でハンドルを握り続けることは、毎日、不必要なリスクを背負い続けることに他なりません。
もし、これらの項目に深く頷くものがあったなら。
あなたが「辞めたい」と思うのは、ごく自然で、正当な自己防衛の本能です。
【仕事が嫌いなのか、今の働き方が嫌いなのか】
ここで、一度だけ、冷静に考えてみてください。
あなたが本当に嫌いなのは、「ダンプを運転すること」そのものでしょうか。
それとも、「今の会社で、今の条件で働き続けること」でしょうか。
巨大な車体を自分の手足のように正確に操り、狭い現場にピタリと収めた時の、あの感覚。
昨日まで何もなかった場所に、自分の仕事で道ができていく、建物が建っていくのを目の当たりにした時の、あの達成感。
晴れた日に、好きな音楽をかけながら、広い道を走る、あの心地よさ。
もしかしたら、そんな仕事本来の面白さや、やりがいを感じる瞬間も、これまでにあったのではないでしょうか。
もし、答えが「今の働き方が嫌いだ」というものなら、話は驚くほど簡単です。
職場を変えればいい。
あなたのその数々の不満は、会社を変えるだけで、そのほとんどが解決できる問題なのです。
【後悔しない転職のために。良い会社を見抜く、3つの視点】
では、どうすれば「良い会社」に巡り合えるのか。求人票の言葉に惑わされず、その会社の本質を見抜くための3つの視点をお伝えします。
1.「給与」の項目で、会社の”誠実さ”を見る。
「高収入!」といった曖昧な言葉ではなく、具体的な給与体系を確認します。「月給制」と明記されているか。これは、天候に左右されない安定性を社員に約束する、という会社の意思表示です。「賞与」や「昇給」の記述があれば、社員の頑張りを評価する体制がある証拠。「退職金制度」の有無は、社員の未来にまで責任を持つ覚悟があるかどうかの、重要な指標となります。
2.「休日・勤務時間」の項目で、社員への”配慮”を見る。
「日曜・祝日」といった基本的な休日に加え、「GW・夏季・年末年始」などの長期休暇が明記されているか。これは、社員のプライベートを尊重する姿勢の表れです。また、「休憩120分」のように、法定以上の休憩時間を設けている会社は、ドライバーの健康と安全を深く考えている可能性が高いと言えます。
3.面接は「見られる場」ではなく「見抜く場」と心得る。
面接では、臆することなく質問をしましょう。その回答にこそ、会社の本当の姿が映し出されます。「車両の点検や整備は、どのくらいの頻度で行っていますか?」「雨天で現場が中止になった場合の給与保証について、具体的に教えてください」「ドライバーの方々の、平均的な勤続年数はどのくらいですか?」こうした質問に、誠実に、そして自信を持って答えられる会社こそが、あなたが選ぶべき職場です。
【最後に】
この記事を読んで、どう感じるかはあなた次第です。
今の会社に残り、状況が改善されるのを待つのも一つの道でしょう。まったく違う業界に、新たなキャリアを求めるのも、もちろん素晴らしい選択です。
ただ、もし「ダンプの運転そのものは、まだ嫌いじゃないんだよな」という気持ちが、あなたの心に少しでも残っているなら。
あなたのその貴重な経験と、何万キロもの無事故運転で培ったスキルは、決して安売りされるべきものではない、ということだけは、忘れないでください。
その価値を正当に評価し、プロとして尊重し、あなたとあなたの家族の生活を本気で守ろうとする会社は、必ず存在します。
「辞めたい」という気持ちは、あなたを不幸にするものではありません。
それは、あなたをより良い未来へと導く、大切な羅針盤なのです。
あなたのその決断を、心から応援しています。